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「震災・原発事故から5年を検証する」 全会員アンケート調査結果のまとめ

福島大学経済経営学類 教授 西川 和明

 2月24日に福島同友会は『逆境を乗り越える福島の中小企業家たちの軌跡』を発行しました。その中から、福島同友会が行った全会員アンケートについて、福島大学経済経営学類の西川和明教授の結果まとめを一部抜粋して紹介します。


はじめに

 2011年3月11日に発生した大地震によって福島県では、太平洋岸の相双地方といわき市の合計10市町が津波被害を受けるとともに、冷却用の電流が停止した福島第1原子力発電所から半径3メートル圏内に即日避難指示が出されました。その後同発電所で水素爆発が発生したことにより、4月21日までに同発電所20メートル圏内と第2原子力発電所8メートル圏内に避難指示が出されるとともに、その周辺の町村に計画的避難区域と緊急時避難準備区域が設定され、これら区域からの避難および立ち入り禁止が実施されました。相双地方の多くの町村の全域あるいは一部がこの区域に含まれます。

 地震・津波によって死者が1709人に達し、行方不明者も245人に上り(2011年6月30日現在で福島県災害対策本部発表)、同じ発表によると、避難指示等に伴う避難者7万6271人を含めて8万3353人が避難しました。このように、福島県においては地震のみならず津波に襲われたほか、未曽有の原子力発電所事故という3つの災害を被りました。

 地震発生から5年を経過して、福島同友会会員の経営状況を調査するため、このアンケートでは、1853名の県内会員にアンケートを依頼し、904名から回答のあったものを集計しました。

特徴的な2点

 このアンケートで明らかになった特徴的な事柄として2点あげたいと思います。

 1つ目は、「被害の原因を地震・津波と原発事故の2つに分けた場合に、どの影響が最も大きかったか」という質問に対して、「原発事故による影響が大部分(6割以上)」とする回答が61・3%を占めていることです。特に原発事故による避難などの、移動を伴う影響を受けた相双地方および隣接する田村地方ではこの回答が8割を超えています。しかし、避難地域にならなくても原発事故の風評を受けたことなどにより相双・田村地方以外でも原発事故による影響が大部分という回答が6割前後から7割と高い割合を示しています。

 2つ目として、アンケートの記述欄には表現は異なりますが、「従業員のおかげで震災直後の大変な時期を乗り切ることができた」という趣旨の記述が多く見られました。特に、「原発事故直後には放射能汚染が心配されたので従業員には遠くに避難するように指示したが、社員は自分の意思で出社して来てお客さんへの対応をしてくれた」という意見のように、経営者と従業員との信頼関係の重要さを再認識した経営者が多数いました。

 これは、一朝一夕に芽生えたものではなく長い間に醸成されてきたものです。そうした従業員重視の姿勢を反映していると考えられるのが、次の2つの質問です。

 1つは、「震災を経験した経営者として経営上のプラスになったと思う事は何か」という質問に対して、「従業員の大切さを一層認識するようになった」という回答が最も多いことです。

 そして、別な質問で「震災後の雇用対策についてお答えください」という質問に対しては、「給与削減や解雇など、リストラは行わなかった」と回答する企業が8割を占めていました。これまでの災害とは異なって原発事故の影響もあったために、災害による直接被害だけでなく風評という間接被害によって売上高が大幅に減少した企業が多く存在していたわけですが、そんな中でも従業員重視の姿勢が貫かれていました。これがこのアンケートで判明した重要な2点です。

被害状況と売上高

 まず、アンケートでは、「大震災と原発事故による被害の程度がどうだったのか、したがって事業再開が順調になされているのかどうか」を質問しています。その結果、「被害が無いまたは軽微だった、あるいは改築修理ののち、同じ場所で事業を継続している」企業は、地震・津波・原発事故の被害を最も多く受けた相双・いわき以外を合算すると9割以上ですが、相双地方といわきはそれぞれ回答企業の7割前後とかなり低くなっています。逆の表現をすると相双・いわきでは「仮設の店舗・事業所や移転などを余儀なくされた、あるいは、再開のメドの立たない企業」が回答企業の3割いることを示しています。地震・津波・原発事故の直接的影響が相双・いわき地方にかなり集中的に発生していることがわかります(表1)。

 売上高について、震災前と現在(直近の決算期)を比較して売上高が「増えた」と回答した企業が5割(47・6%)で、「減った」とする企業は3割(28・7%)でした。「増えた」と「同じ」を合計すると6割を超えています。中小企業白書(2016年版)によれば、震災前である2010年の全国の中小企業の売上高総額が150兆円を超えていましたが、2015年には126兆円まで減少しているのに比較すると、それを上回る結果を示しています。

 アンケートでは売上高の増加要因について、震災に起因する要因(復興関連)と、それ以外の要因について質問しました。復興関連では「公共投資の増加」、「行政の復興支援対策」、「原発事故に伴う除染などの環境対策事業」および「第1原発廃炉関連事業」で、全体の5割を占めており、中でも原発事故関連の除染と廃炉関連が14・6%となっていることが福島県の復興関連事業の大きな特徴を示しています。(アンケートのほかの項目は『逆境を乗り越える福島の中小企業家たちの軌跡』を参照ください。)

まとめ

 地震・津波・原発事故によって物流が途絶えた中で、福島県の企業は県外の多くの同業者や顧客からの支援を受けました。

 こうしたことを背景に、「自分が今までやってきたことが間違いではなかったから、お客様の支援を得られた」という今までのやり方を肯定する意見が見られる一方で、今までの経営のあり方を変えさせられた5年であったという記述もいくつか見られました。

 このことは、この災害を受けたことによって、「今までの自分の経営で評価できる点」と、「今までの経営を見直さなければならない点」という2つの側面を経営者の多くが認識しているということを示しているのではないでしょうか。

 アンケート調査結果で、震災前に比べて売り上げが増えたとか、経常利益が増えたという回答が多いことは、実際には予想外でした。しかし、内容を精査すると復興事業によって特に建設関連業で売り上げや経常利益を伸ばしていることの要因が大きく作用していることがわかりました。従って、問題はこれからです。除染や復興事業が終わってからどうなるかという不安は存在します。

 数年のうちに除染作業や復興工事が縮小して行くことは当然考えられることであり、これから5年後を見据えると、業績のいい今のうちに新事業分野に経営資源を振り向けるなどの方策が必要です。

 最後に回答者の記述にあった次の言葉で締めくくりたいと思います。「大震災から10年後には社員たちと『あの大震災があったからこそ』と言えるように努力している」

 

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