企業・事業所の6割超の実態を集め、現状認識を共有
【宮城】震災後の中小企業の役割が浮き彫りに
宮城同友会南三陸支部は4月13日、町内の294社から回答のあった企業実態調査の報告会を開催しました。
東日本大震災で65・3%が事業所全壊の被害に遭ったなか、その多くが半年以内に事業再開して地域の復興をリードしたことや、多くの経営者が人材確保や販路開拓を今後の課題だと考え、克服に向けて意欲を持っていることが浮き彫りになりました。参加者は中小企業が地域にはたす貴重な役割を改めて確認するとともに、町ぐるみで中小企業支援に取り組むため、中小企業振興基本条例の制定を進めようと熱気あふれる会となりました。
報告会は南三陸町庁舎で行われ、佐藤仁・町長や高橋一清・産業振興課長など町幹部と職員、南三陸町商工会から山内正文副会長、宮城同友会から佐藤元一・鍋島孝敏・五十嵐弘人の各代表理事のほか会員と事務局員など34名が参加しました。
行政が覚悟を決めるための条例制定
今回の調査の集計・分析に協力した菊地進・立教大学名誉教授は、震災前に経営計画を持っていた企業とそうでない企業で震災後の業績に開きがあることや(図1)、半年以内に事業を再開できたかどうかでも業績に差があることを指摘し(図2)、震災復興における企業の経営計画の重要性を強調しました。また町への意見・要望の記述回答が多かったことに触れ、「他自治体では、行政への注文ばかりになるケースもありますが、南三陸町では自分たちが町の雇用を生み出さなければならないという意識が非常に高いのが特徴です。復興需要の終息、人口減少など先行きに課題は大きいですが、魅力的な経営者がたくさんいるので、そういう町には人が集まります。それをコーディネートするのが町の役割」と行政への期待を表明しました。
植田浩史・慶応義塾大学教授は条例の活用について報告し、町内総生産は震災前を大きく上回り約500億円にのぼるものの復興需要が終息すれば今までの延長線上では難しく、地域全体が新しいチャレンジをしていかなければならないと指摘。そして「条例は中小企業を重視することを町の内外に宣言し、自治体が覚悟を決めるものです。制定することで町が中小企業施策を進めやすくなり、震災復興の課題を克服するうえで、うまく条例を制定できれば町の将来は決して暗いものではありません」と条例制定の意義を強調しました。
企業・事業所の6割超が回答
この調査は宮城同友会南三陸支部が町から受託して実施、南三陸商工会に加盟する472社の企業・事業所を対象に2015年10月から11月にかけて実施し、全体の61・6%にあたる294社が回答しました。調査対象には町内で再開できていない企業もあることから、実際の捕捉率はさらに高いと思われます。吉田信吾・宮城同友会南三陸支部長が中心となり未回答者に電話をかけるなど調査の成功のために力を尽くしました。宮城同友会が企業実態調査を受託するのは初めてのケースです。今後、調査結果をもとに9月議会に南三陸町中小企業振興基本条例が提案される予定です。
愛媛県東温市に学び調査を実施
同支部は条例制定をめざすうえで各地の先進事例に学んできました。震災需要が一段落した後の町づくりを、どのように行政と共に取り組んでいくのかが検討課題となり、2014年に北海道同友会別海地区会を訪問、中小企業振興基本条例をもとに産官学の枠を超えてフラットに議論して産業振興に取り組む関係者の姿に感銘を受けて、南三陸町でも条例制定をめざそうと準備を開始しました。
2015年には、条例を制定するだけでなく、実効性のある取り組みにするため、(1)企業実態調査、(2)中小企業振興基本条例、(3)振興会議の設置を一体にして取り組んでいる愛媛県東温市と松山市を訪問し、両市で中小企業の現場に即した施策が生まれていることを目の当たりにしました。
今回の調査は東温市での全事業所調査をモデルに取り組んだものです。吉田支部長は「先行自治体に学び、調査は貴重な成果をおさめることができました。町は結果を最大限に生かして条例が制定されることを期待したい」と述べました。
南三陸町商工会の山内副会長は「自社に理念があったからこそ存続しています。南三陸町も同様に理念となる条例を制定し、町全体が一丸体制となって日本一復興した町にしましょう」と力強くあいさつしました。町の今後の展開に期待と注目が高まっています。