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【特集】第4回東日本大震災復興シンポジウム あれから5年、被災地の現状と課題

中同協 事務局 瓜田 靖氏

5年間の震災関連支部会員数と人口減少率

 私は昨年、福島・宮城・岩手の会員企業を訪問させていただきました。その様子は『中小企業家の絆』に書いていますが、特長としては、(1)新しい仕事づくりや新たな事業に挑戦していること、(2)常に地域の発展のことを考えていること、(3)大震災で価値観や経営理念が変化・進化したことなどです。個々の企業は奮闘していますが、同友会はどうだったでしょう。

 直接被災を受けた地域の支部の5年間の推移を各市町の人口減少割合とともに示すと、福島の相双地区は震災前が91社、現在は85社。南相馬市の人口は18・5%減の状態です。宮城は、石巻支部が65社に対し、現在78社、石巻市が8・5%減。気仙沼支部が66社に対し、現在60社、 気仙沼市が11・7%減。そして、南三陸支部が31社で現在も同じ規模。南三陸町は29・0%減です。岩手は、気仙支部が80社に対し、現在76社、陸前高田市が15・2%減です。どうです、上々の業績ではないでしょうか。10数%、ひどい場合には3割近くも人口が減っているのに、各支部は会員数をほぼ維持しています。

同友会だからこそできた6つの特質

 ほかの地方なら20年後、30年後に起きる事態、人口減少・人口流出、地域の衰退という流れが、いきなり目の前の課題になったわけです。それに対して、経営者としての覚醒があったと思います。経営者として同友会という組織に結集したことによる6つの特長がみられました。

 第1に、「われわれ、同友会がやっていくしかない」という自主・自立の精神が支えになったことです。 震災直後は行政も対応ができず、行政に代わって同友会が機能することもありました。自主・自立の精神こそ同友会の真骨頂であったわけです。

 第2に、「1社もつぶさない、つぶさせない」という企業の存続と雇用の維持への経営努力は半端ではありません。岩手同友会は、「企業の存続と雇用の維持へ向けた緊急アピール」を出しました。経営者の力強い思いを社員に伝え、将来に向けての不安をなくすことなど注力しました。

 第3に、同友会の絆、ネットワークが非常に強まったこと。震災直後に停電し、メールも電話も通じない中、e.doyuがつながり、全国へ情報を発信できました。震災から5日後より、支援物資が届けられ、避難所ごとに必要な物資が分けられ配られました。これらのことが積み重なり、同友会の絆、ネットワークが非常に強まりました。

 第4に、価値観をはっきりさせ、経営理念を進化させることができました。震災前の経営理念はあいまいな表現だったものが、震災後、理念に徹底して向き合い、社員全員で考え、より本質的で魂の入った経営理念になりました。また、短い時間で立ち上げることができたのは、経営指針があったからです。

 第5に、「まちの衰退をどう防ぐか」の意識高揚があったこと。地域の衰退をどう防ぎ、少しでも地域循環が機能する経済へ発展させるのか。中小企業憲章の精神で地域の復興を進めていき、それを生かす中小企業振興基本条例を制定・機能させることが肝要と気づきました。

 第6に、エネルギーシフトです。単なるエネルギー転換でなく、エネルギーシフトという新しい時代の価値観・理念と地域を支える中小企業という考え方にそったエネルギー政策の大転換が必要であることを自覚しました。

 東日本大震災から5年、このような同友会運動の展望を持っていきたいと思います。

「震災後20年の検証」の兵庫同友会

 兵庫同友会が昨年、阪神大震災の教訓をまとめた「震災後20年の検証」という文書が参考になります。兵庫同友会は、「経営革新(第二創業)」、「連携」、「理念型経営」の3つをこれまでのビジョン策定の柱としてきました。『ビジョン2015』で掲げた「理念型経営」の実践において、「なくてはならない企業」への成長・到達を目標とし、兵庫同友会企業が一丸となって、「人を生かす経営」の理念が共有されてきました。

 また、阪神大震災からの復興戦略の柱の1つとして、「連携」の方針を打ち出しています。アドック神戸やワット神戸を設立させ、情報の共有・共同開発・産学官ネットワークなどの活動を通じて参加企業の自立化とイノベーションを推進しました。ただ、アドック神戸などのメンバーとなるには、一定の水準に企業がならなければ難しいのですが、エネルギーシフトはどのような企業でも参加できますし、チャレンジもできます。エネルギーシフトへの被災地同友会の多くの企業の取り組みが期待されています。

 さらに、兵庫の中小企業は二重の重荷を背負いました。1つは、震災による破壊というダメージからの回復という重荷、もう1つの重荷は、構造変化への対応に、震災を契機にして、一挙に迫られたということです。震災による特需が終わった後で、構造変化という経営環境の激変にどう対応するかという重荷が非常に大きな圧力としてかかってきて、対応できないところで倒産が多発しました。対して東日本大震災は、5年間の震災関連支部会員数で見たように今のところ奮闘しています。今後、新しい仕事づくりが第二創業として発展していくかどうかが課題となるでしょう。

 このように、まったく条件や時代が違っていますが、阪神大震災から「震災後20年の検証」という1つの「回答」が出ています。3つの同友会が「回答」を参照しながら、どういう道を歩んでいくか、同時代人として大きな期待を抱くものです。

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