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【特集】第4回東日本大震災復興シンポジウム 東日本大震災の教訓を100年後の未来へ

 3月10~11日に第4回東日本大震災復興シンポジウムが開催されました(3月25日号既報)。10日に行われたバス視察を写真で振り返り、11日全体会で行われた東北大学増田聡氏の問題提起、広浜幹事長のまとめ、瓜田・中同協事務局員の報告概要を掲載します。

【問題提起】
震災復興政策の検証と新産業創出の提言

東北大学大学院経済学研究科 教授 増田 聡氏

創造的復興が課題

 総合研究開発機構(NIRA)が2011年の3月と11月の復旧指数(インフラ復旧度)をまとめており、市町村別に見ると福島県の双葉町・浪江町などは3月の40~50%から60%にまで、岩手県の陸前高田市・釜石市・山田町で30%台から80~90%にまで復旧が進んだと示されています。被害の状況はまちまちで、それに応じた復旧が行われました。

 経済センサスから事業所従業員数の少ない自治体ほど、事業所数の減少が激しいことが確認され、津波被害を受けた自治体では30%以上の事業所減少率も見られました。特に、岩手県の山田町、大槌町、福島県の川内村、宮城県の南三陸町、女川町では60%以上にもなっています。

 直接被害を受けていない地域の企業にまで影響が広がり、負のスパイラルで事業が縮小しています。気仙沼市や陸前高田市などの沿岸部は事業所を津波で流され、全体で衰退傾向にあった企業環境と津波被害という2つの危機的状況を同時に乗り越えなければならなくなりました。

 2015年度で集中復興期間の最終年度を迎えます。復興需要がピークを過ぎて、これからどうするかというタイミングで国からの復興投資が終了し、予算も縮小されます。産業分野(企業向け)の復興予算は集中復興期間の4兆1000億円の10分の1まで縮小されると見込まれます。

 被害を受けた地域の成長をどのように考えるべきかという段階にきています。一番の問題は復旧と復興の目標値があまり定まっていないことです。国のインフラ整備を中心に、震災前の状態に戻すことを復旧と言います。そして、東日本大震災復興基本法の基本理念には「単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた抜本的な対策及び1人1人の人間が災害を乗り越えて豊かな人生を送ることができるようにすることを旨として行われる復興」とあります。こうした地域の「創造的復興」が課題です。

震災復興シナリオ・プランニング

 「シナリオ・プランニング」とは「なるようになるとなるようにする」という「運命と意志」に基づいて望ましい(避けるべき)未来を探り、実現(回避)するシナリオを予測・想定するものです。震災の起きた2011年の夏に東北の大学研究者をメンバーに2021年の東北経済はどのように復興しているかをテーマにプランニングを行いました。

 プランニングでは「不確実性(1)効果的な復興計画、制度・予算が、早期にまとまるのか」、「不確実性(2)復興庁と東北の各地域(各県)の連携が取れるのか」、「不確実性(3)東北として、明確な『選択と集中』がなされるのか」、「不確実性(4)住民・企業が賛同・参画できるのか」の4つの不確実性を考えました。

 ベストアンサーは震災前からの課題克服と産業の高度化による「復興 東北」を超えた、産業構造の転換を迎える「新生 東北」を達成することです。しかし、現状は私たちの考えた目標にまで達していないように思います。国と地方と民間でやるべきことの整理が不十分で、国の復興制度(復興交付金)が、各市町村の予算的負担なしに選択できる事業メニューを用意したことで、現場ニーズと幾分ずれつつも「確保した(=採択された)もの勝ち」の状況をつくりました。また、太陽光発電など太陽光パネルの設置を奨励したと思ったら買い取り価格が変動するといった計画倒れのものもありました。不確実性(4)で示した地域の住民・企業が自ら参画し地域を変えていく仕組みが必要です。

 言論NPOが2015年12月に安倍政権の3年を実績評価しています。評価の視点として(1)東北復興のビジョンを描けているか、(2)被災地の復旧事業を早期に実現する政策がどのように動いているのか、(3)福島第1原発の廃炉への道筋など、福島の再生をどのように進めようとしているのかを挙げています。この3つの視点は復興における根本的な問題を指摘しています。

震災復興の今「震災復興企業実態調査」

 被災地企業の実態を定量的に把握し、記録を後世に残したいと「震災復興企業実態調査」というアンケート調査を2012年から実施しています。青森県八戸市・岩手県・宮城県・福島県に本社を持つ企業5万6000社の中から、2012年と2013年に3万社を対象に実施し、さらにそのいずれかに回答した企業1万1000社を対象に2014年と2015年に実施しました。

 地域別の被害状況(被害額試算比率=有形固定資産の被害額÷震災前総資産額)を見ると、平均で岩手県沿岸部が24%、宮城県沿岸部で18%、福島県浜通りで15%となっています。地域の全企業が回答していませんが、やはり沿岸部の津波被害が深刻であったことがわかります。沿岸部では2012年7月の段階で3割もの企業が事業を再開できなかった地域もありました。

 景況感についても調査しました。まず建設業は、震災直前まで最も業況の悪い業界でした。その後復興投資が上がり、全産業のなかでもっとも業況感が良くなっています。しかし、2013年をピークに現在は減少傾向で、人手不足と資材不足が迫っています。現在上昇しているのは情報・運輸業です。トラック業界が特に顕著です。一番の問題は小売業です。若い人たちの域外流出と高台移転などの地域内需要の変化により業況感は悪化しています。小売の企業がなければ地域の人たちは暮らしていけません。伴って、生活を支えるサービス業も減少、地域で負のスパイラルが起きています。

 深刻なのは人手不足感です。正規従業員の過不足感は厳しく、すべての地域で人手不足感が拡大しています。

 2014年の調査では企業規模別の「震災以外の要因の事業への影響」を調査し、円高や円安、電力料金の値上げや消費増税といった項目を設けました。その中でも消費増税は合計で49・8%と小規模な企業ほど影響が大きく、人手不足(44・1%)、資材不足(36・7%)が続いて影響がありました。震災の被害以外でも東北経済はさまざまに影響を受けています。

 資材不足は2012~2015年の間に復興需要の縮小に伴う必要数の減少などの影響もありますが、若干緩和されています。しかし、人材不足は2015年度から深刻さが増し、人が減っているため募集をしても応募する人が来ません。また、震災のショックで引退される方や職業復帰で職種を変更する方など雇用のミスマッチが起きています。

自治体復興計画の今後

 東日本大震災から5年という復興の節目の年を迎えました。集中復興期間が終了し、被災地域も復興から他の地域と同じ地方創生を視野に入れた復興・創生期間に移ります。復興計画の仕切りなおしの時期だと思います。

 重要なのは復興計画の見直しとともに市町村の総合計画と平成の大合併を経験した自治体の新市建設計画の統合が求められます。宮城県・東松島市では総合計画と復興まちづくり計画を統合した改定総合計画が動き出しています。震災で住民が内陸に集団移転したことにより残された跡地を行政が買い取り、工業団地にする取り組みが始まっています。こうした地域の計画に経営者が関わり、新しい仕事づくりにむけたアイデアを出していただきたいです。

 震災からの復興では、震災前の姿に戻すこと以上にこれまで手を着けていなかった課題の解決に向けて、新たな成長条件を整備していくことが大切です。他の地域より先に訪れた人口減少の地域をどのように再生するか、判断が迫られています。

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