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第3回東日本大震災復興シンポジウム(2)

カテゴリー: シンポジウム

3月26~27日に宮城で第八回地球環境問題交流会&第三回東日本大震災復興シンポジウムが開催されました(四月五日号既報)。東日本大震災の復興と「エネルギーシフト」について議論した交流会について、基調講演の概要を紹介します。

<基調講演>

エネルギーシフトで切り拓く地域再生 ~自然エネルギーの利活用が生み出す地域の雇用~

㈱NERC(自然エネルギー研究センター)代表取締役センター長 大友 詔雄氏

㈱NERC(自然エネルギー研究センター)代表取締役センター長 大友 詔雄氏

㈱NERC(自然エネルギー研究センター)代表取締役センター長 大友 詔雄氏

原子力からのエネルギーシフト

第3回東日本大震災復興シンポジウム

328名が参加し復興とエネルギーの課題を話し合いました

「エネルギーシフト」は世界的な潮流となっています。日本では政策的に反対に向かっていますが、国民の総意としては大きなうねりとなってエネルギーシフトを望んでいると考えています。やはり、原発からのシフトを考えるようになったことがそのきっかけだと思います。
実は私は原子力の専門家として出発したのですが、今から40年前に、自然エネルギーへとシフトしました。「原子力は使えない技術」であると気づいたからです。
米国物理学会(APS)が1975年に発表した「軽水炉安全性研究報告書」によると核反応はコントロールができず、ただただ熱が増大していき炉心溶融が起こるということが報告されていました。原子力技術は人の力では制御できない面があります。
また、ウラン燃料資源も枯渇する資源で、可採年数では百年持ちません。ウランの使用量が現在の石炭並みになった場合21年で枯渇すると予測されています。それに加え、実は原発は他の発電方法に比べ、二酸化炭素の排出量がもっとも多いとも報告されています。
高レベル放射性廃棄物の放射能が環境レベルになるには10万年必要だともフィンランド・オンカロの処分場を巡って議論されています。原子力はそうした有害かつ危険性のある技術です。

自然エネルギーへのシフト
では、なぜ原子力が使われたのでしょうか。そもそも歴史のエネルギーの発展過程は「人力→畜力→風水力→化石燃料→原子力→」ではなく、「人力→畜力→風水力→自然エネルギーの全面的開花→」という発展が正当であったのではないかと思います。
「自然エネルギー」とは「動物・植物が多様に、豊かに存在する地球表層部の自然の構成要素それぞれに存在するエネルギー」と定義しています。太陽や風力、水素など多様な自然エネルギーが存在しています。
つまり、歴史過程で選択されるエネルギーは自然エネルギーであるべきで、化石燃料や原子力は使うべきではなかったのです。
にもかかわらず、化石燃料と原子力が使用されたのは、社会が「効率と利潤」の経済原理を選択した結果です。
原子力や化石燃料を選択したから現在の社会になったのではなく、「効率と利潤」さえよければ危険なものであっても使用する今の社会だから原子力を選択したのです。
自然エネルギー社会は、自然エネルギーを利用した技術を開発し普及しようとしてもそれだけでは実現しません。社会の発展段階でエネルギーの選択は繰り返されてきました。
あたかもエネルギーの選択によって、歴史の発展が規定されているかのように見えます。
しかし技術は社会的、歴史的に制約されており、それを越えて技術が使用されることはありません。今の社会が自然エネルギーを選択したとしても「効率と利潤」の経済原理で負の側面が現れてしまう危険があります。
今の社会の負の側面を改めていくことが、自然エネルギー社会の実現を可能にします。

地域資源を活用した「地域内経済循環」の確立
地域資源である自然エネルギーの地域活用を進めることは、これまで地域外に流出していたお金を地域内にとどめることになります。
例えば、石油消費で考えてみると、日本では石油の九九・七%を輸入に依存し、石油輸入額は2013年で20兆円と言われています。それほどのお金が地域外、産油国に流出しています。この石油に支払われているお金が地域にとどまり、地域資源を活用する原資に変わるのです。
地域資源を使った新しいエネルギーの地産地消を行うことで、地域にとどまったお金を効果的に使用し経済効果を生む「地域内経済循環」の確立が始まっています。ちなみに、石油と木質チップ燃料の価格を比較すると、木質チップ1t 1.6万円(チップ発熱量3,000Kcal/kg)と重油1ℓ100円(比重0.9、発熱量9,300kcal/kg)として、同じ熱量あたりでの価格差は5万円で木質チップの方が安くなります。これだけ見ても、地域内経済の自立循環をめざせることがわかります。

森林資源豊かな地域の木質バイオマスの可能性
北海道内に森林資源の豊かな地域が多数ありますが、その多くは林産業に縁遠くなっている地域です。そうした地域には木質バイオマス利活用の大きな可能性が広がっています。
【事例①:美幌町】
美幌町では2つの公共施設に対して、規模の大きいボイラーにチップを、規模の小さいボイラーにペレットを使用し、安価なチップと高価なペレットを組み合わせて全体の「地域内経済効果」を生み出すことに成功しました。
石油を使用していた2010年までは毎年200万円しか地域にとどまらなかった状況が木質バイオマス燃料を使用することで1,300万円ものお金が地域内にとどまるようになりました。町の財政負担も880万円ほど削減され、ペレット製造工場の安定化にもつながりました。
【事例②:足寄町】
足寄町ではペレット生産工場が創設されることによって、林業での雇用はもとより全産業分野に及ぶ雇用創出の可能性があることを明らかにしました。
エコツアーなどの観光とペレットを結び付け、雇用促進の研修会などを繰り返し、通年139人、人口比で1.8%の雇用創出を達成しました。

森林資源が見込めない地域の可能性
ドイツには8,000カ所のバイオガスプラントがあります。プラントに集めている混合発酵物から可燃性のバイオガスを取り出して燃焼し、バイオガス発電を行い、同時に発生する熱を利用するためです。
原料1t当り30 m³のバイオガスを発生する牛糞尿に比べ牧草サイレージではその七倍の 200m³にもなります。そこに注目したバイオガスプラントの建設は農家の収益性を大きく変化させました。
全国各地に広がる耕作放棄地や遊休地では利活用の新しい可能性が生まれています。
【事例:音威子府村】
人口八百人の北海道で一番小さい音威子府村は、世界で最初のエネルギー自立村であるユーンデ村と非常に規模が似ているとして、日本版バイオエネルギー村への取り組みを始めています。
ドイツとの友好関係を築き、牧草などを原料として安定供給を図る「原料供給地」、バイオガス燃料を製造する「バイオガス化工場」、バイオガスで発電した電力は売電し熱は地域に供給するという「エネルギー供給センター」として地域の仕組みを計画しています。
それぞれの施設で地域に眠っている資源を掘り起こし、新たな雇用を生みだすことは小さな村でも可能です。“消滅自治体”と言われるような小さな村は大きな可能性を持っています。

地域におけるエネルギー条例と中小企業者の役割
エネルギーシフトは世界的潮流として流れを押しとめることはできません。
エネルギーシフトは地域住民が自然エネルギー生産の担い手となることが鍵です。原資は地域にある、市民ファンドが各地で創設されているなど住民参加の新たな可能性がでています。そのためのエネルギー条例の制定も重要です。
自然エネルギーは資源的「普遍性」と「固有性」の対極的特質を持ちます。資源の独占を許さず公平な所有を促し地域住民が主体となる「普遍性」と、自然は地域固有であり、自然エネルギーも地域固有であるという「固有性」。この二つの特質から自然エネルギーの利活用は地場産業にならざるを得ない必然性を持っていると考えています。
地域固有の財産である地域資源を活用し、産業として中小企業の経営者が仕事を作り出すことこそエネルギーシフトの最も重要な課題です。

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