エネルギーシフトで持続可能な社会を創ろう
3月26~27日に宮城で第8回地球環境問題交流会&第3回東日本大震災復興シンポジウムが開催されました。東日本大震災の復興と「エネルギーシフト」について議論した交流会について、復興に向けた取り組み報告概要を紹介します。
復興に向けた取り組み報告
<岩手>私がなぜ震災後「箱根山テラス」に取り組んだのか
㈱長谷川建設 代表取締役 長谷川 順一氏
㈱長谷川建設の4代目である長谷川氏からパワーポイントを使って復興に向けた取り組みが紹介されました。長谷川氏は東日本大震災を受け木質資源の利用を地域に普及しようとしています。地域を超え「熱エネルギー自立の社会を創ること」が大きな目的であると強調しました。
㈱長谷川建設は宮城県気仙沼市に近い陸前高田市にあり、震災により事務所は倒壊しましたが場所を移転し経営を再開しました。現在は復興特需もあり、社員数・売上とも震災前の2倍ほどを推移していると自社の状況を説明。
長谷川氏は震災から1年後、木質ペレットに注目します。ペレットストーブやバイオマス事業の可能性を模索しながら地域のイベントに積極的に参加し、地域住民に知ってもらう活動を続けています。長谷川氏は「事業としては3年目でまだまだですが、商品を売るのではなく、『地域の今後の生活を変化させること』が大事である」と語りました。
ペレットの普及は、岩手大学の産学官連携センターと共同開発を行い、一点集中型ではない分散型の普及が望ましいことも紹介しました。
長谷川氏は岩手同友会気仙支部のメンバーが協力して2014年7月に設立した「箱根山テラス」を紹介。「14四部屋の小規模な宿泊施設ですが、暖房は全てペレットストーブでまかなっています。バイオマスボイラーの導入も検討し、使用する木質バイオマス資源は地域で賄う予定です」と意気込みました。
箱根山テラスのミッションは「木と人をいかす」。長谷川氏は「日本は森林大国です。木質バイオマスの利用が現代の化石燃料になります。木質バイオマスの利用が増えるほど山が綺麗になり、地域の雇用を生み出していく。新しい経済循環を私たちでつくるのです」と強調しました。
最後に長谷川氏は「『震災でこの国は何が変わったのか』をこれまで考えてきました。地域のためにやれることに気づき、行動しているかをいつも自問します。『つくる、まわす、つらぬく』という思いで未来に禍根を残さないよう実践していきたい」と強く震災への思いを述べました。
<宮城>私の夢は活気ある南三陸町を取り戻すことです
㈱カネキ吉田商店 代表取締役 吉田 信吾氏
南三陸町は、震災前は人口約1万7,000人の観光と漁業を柱にした潮風がそよぐ町でした。震災では死者・行方不明者合わせて800名以上、3,300戸が全半壊という被害を受けました。
現在の復興状況ですが、かさ上げ・埋め立てが急ピッチで進み、魚市場の再建や宅地の造成、復興住宅の建設、今年中には三陸道南三陸インター開通が予定されています。海産物を生かした水産加工業も復旧しました。本来百年でやる町の事業を4~5年でやっているような印象です。
しかし町民にとっては将来不安があります。私たち中小企業の中には、いまだに仮設工場で水産加工業を営んでいて「お客様に申し訳ない」という声があります。またせっかく再開しても働き手がおらず業種を問わず人材不足が深刻です。
北海道別海町にならい条例制定へ
そこで、南三陸町に似た規模の自治体で、先進的な地域づくりの取り組みを行っている北海道の別海町に注目し、北海道同友会別海地区にならい中小企業振興基本条例の制定を南三陸でも目指すことを決めました。条例制定をめざし、町長をはじめ地元の農林漁業・観光業などの業界団体に出向いて理解を得る活動を始めています。
現状のままでは、南三陸町の産業が困窮することは目に見えています。支部では「私たち中小企業は地域の生業や文化に大きな役割を果たしています。これを再確認して、一社一社が自覚と責任をもって自助努力を惜しまない姿勢で取り組んでいきましょう」と議論しました。
震災で会員のほとんどが家族か会社を奪われました。しかし社員を解雇した会員企業は一社もありません。社員の生活を保障することを最初にやりました。その後の復旧活動は震災のショックで呆然としている被災住民の命を守り希望の光を見出すことにつながりました。社員の命と同じように住民の命が大切だということに会員は揃って気付きました。
日々の例会や経営指針の作成など同友会での学びがあったからこそ、突然襲ってきた大震災にひるまない知恵と行動力がわいてきました。
私たちはピンチをチャンスに変えます。このチャンスを逃しません。全国からいただいた支援という「仏」に、中小企業振興基本条例という「魂」を入れ、以前に増して魅力ある南三陸町にすることを誓いたいと思います。
<福島>原発被災地ふくしまの今
㈱北洋舎クリーニング代表取締役 高橋 美加子氏
高橋氏は福島県南相馬市でクリーニング店を営んでいます。高橋氏は「原発事故は戦争と同じような危機的で異常な事態を引き起こしました」と当時を振り返りました。
高橋氏は法律や制度の決定など世の中の動きに「これまであまりにも無関心であった」と反省します。だからこそ、「地域の中小企業家として理念をつくり、経営指針を作成するなかで地域を変えようとすること。地域のための中小企業振興基本条例制定の大切さを感じています」と語ります。
高橋氏は「震災後、人や組織の壁が取り除かれ地域の連携が進みました。皆さん一人ひとりに壁があります。それは地域住民間、社員間、経営者間、これらの無関心が作り出しているのです。無関心は地域を弱め、国を弱めています」と呼びかけました。
最後に、今年の3月11日への思いを込めた文章を涙ながらに紹介しました。
「暮らしとは多面体である。原発事故はそのことをはっきりとあぶり出して見せた。暮らしを忘れた者たちによって書かれるこの地域の『実情』を、ここに住む者、ここから追い出されて彷徨う者は、怒りと悲しみで歯軋りする思いで読む。しかし、反論しようとすると、それは呪詛のような言葉の連なりになり、われとわが身を傷つける刃となって戻ってくる。
震災直後『つながろう南相馬』というたった四人で始めた活動を紹介する時に書いた須藤栄治君の呼びかけ文が蘇っている。
『被災者は敗者ではない。新しい時代を作る勇者である』
核の時代の象徴として、今度の原発事故はある。福島から核を超える新しい時代の暮らしを紡ぎ出す。私たちを駆り立てているのはそんな思いだ。
経済競争の渦の中でわれを忘れていた人達が、南相馬へ来てその美しい空と大地の間で、今を懸命に生きている私たちと出会って立ちどまる。この四年間、何度もそういう出会いを繰り返してきた。
問われているのは『核災を超えて紡ぎ出す新しい暮らし』だ。そこには『フクシマ』という括りはない」