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中同協ドイツ・オーストリア視察「エネルギーシフト」こそが地域の未来を救う鍵(上)

 10月12~20日に中同協はドイツ・オーストリアの視察を行いました。今回の視察では「エネルギーシフト」という課題が見えました。9日間にわたる視察の概要について菊田哲・岩手同友会事務局長が2回にわたって紹介します。

省エネルギーという生き方

 初めての現地集合、現地解散で行われた中同協ドイツ・オーストリア視察は、全国から28名が参加し、10月12日から20日の9日間の日程で行われました。

 今回の視察に当たって当初目的としていたのは、ドイツ、オーストリアのエネルギー政策と街づくり、ヨーロッパの中小企業憲章の実践の現場に直接触れ、学ぶことでした。しかし現地に立った瞬間受けた衝撃は、全く予見しないものでした。日本との生活文化スタイルの質の違い、そしてその根底に流れる省エネと自然エネルギーを生かす「エネルギーシフト」へ向けた生き方、くらしの豊かさに対する考え方の違いに驚くことになります。

トラムが行き交うフライブルグの中心部の町並

トラムが行き交うフライブルグの中心部の町並

 集合場所のスイス、チューリッヒでのことです。中世から続くゴシック様式の教会聖母教会を中心とした石畳の街並み、街の中心をゆったりと流れるリマート川沿いに路面電車(以下トラム)が行き交い、ウインドーショッピングをしながらゆったりと佇(たたず)む人びと。自然と都市が一体の街がそこにありました。24時間営業のコンビニエンスストアも自動販売機もありません。その後訪れる地域が、国境を跨(また)いでも同じような雰囲気を醸し出していました。そこから「大きな被災を受けた地域で、どうしてこんな街づくりを目ざせないのだろうか」この疑問が視察の間、ずっと脳裏にありました。

市民が動かした環境政策

 初日夜、結団式が行われたチューリッヒのホテルでは、深夜にも関わらず、再生可能エネルギーへの考えや憲章、街づくりへの思いなど、それぞれの参加者の思いが、遅くまで語られました。

 2日目、3日目は、ドイツのフライブルクに移動し、フリージャーナリストの村上敦氏に同行いただき、歩きながらフライブルクの街づくりとエネルギーシフトへの取り組みのレクチャーを受けました。

フライブルグ大学

歴史のあるフライブルグ大学で。フライブルグ市は学園としとしても有名

 フライブルク駅前のホテルから歩いて、1457年創立の歴史あるフライブルク大学へ。21万人の人口の中で、学生が約1割の2万2000人。2キロ4方の中に駅、大学、教会大聖堂、商店、劇場が建ち並び、その市街地中心部には車の乗り入れが制限されます。ここでも道路の中心にはトラムが走り、補うように歩行者のすぐ脇を縦横無尽にバスが動きます。移動には全く不自由はありません。

 ドイツの大学は誰もが入学でき、授業料は無料。若い世代が大学で学び、社会に貢献する役割を持つとの考えが根底にあり、社会に役立ちたいという意志を伸ばせる仕組みができています。日本では「飛び級」の制度的なマイナス面ばかりが注目されますが、現地を訪ねてみて初めて、根底にある人間に対する広範な捉え方の違いが見えて来ます。

 フライブルク市民から起きた原発や環境保護へ関する問いかけ、そして車の乗り入れ制限政策には、そうした民主主義に対する根本的な考え方の違いや、学園都市という背景もあるように感じます。

生活文化の変革に取り組む決意

 フライブルク初日は丁度日曜日で、商店の多くがお休み。大聖堂の周りも静かな広場が広がっていました。これは「日曜日は働いてはいけない」規則があるからです。翌日の月曜日は午前中から歩けないほどの市が並び、街にも人が溢(あふ)れました。私の住む盛岡市は約30万人。平日午前中の商店には、人影はまばらです。その違いは、住民参加の持続可能なコミュニティーを目ざした都市計画があります。私たちはその具体例に更に驚くことになります。

 視察2日目。「生活文化の変革に取り組んでいくことが必要なのではないか」そう考えながら私たちが向かったのは、フライブルクの中心地からトラムで十分ほどのヴォーバン住宅街です。

 兵営地であったヴォーバンを住宅地として、理想的な持続可能な街づくりをしていこうと計画されたのは、1992年のことです。フライブルク市は決定当初から都市計画を緻密に作成し、2000軒の集合住宅と約5000人が住む街、そして600人の雇用を生み出す住宅地を目ざすことになります。

住宅街

雨水を地下に浸透させ、緑豊かで自動車を必要としない暮らし

 ヴォーバンは、車を必要としない街です。自家用車を保有する人は80人に1人。子どもたちが車の一切入らない路地で元気に走り回り、住宅の周りには緑豊かな木々が繁(しげ)り、どろんこ遊びをする親子。トラムが住宅の100メートルのところまでやってくる。しかも買い物も通勤もパスは家族で自由に使える。むしろ車がないほうが豊かに暮らせる街です。ほとんどの住宅は集合住宅で、世代を越えて住む人たちが変わっても長く使い続けることができます。

エネルギーシフトは地域に新たな仕事と雇用を生む

コジェネレーション施設

地域暖房を支えるコジェネレーション施設

 驚いたのは地域暖房の存在です。ヴォーバンの計画の背景には、人口減少と少子高齢化という日本の地方が抱える状況と同じ問題がありました。フライブルクも北海道や東北と同じく、冬はマイナス18度前後まで冷え込む寒冷地です。働く場を求めて出て行く環境から、むしろ移住したくなる街へ。その実現のために考えられたのがコージェネレーション(地域暖房)です。

 地域暖房とは、木質バイオマス、チップなどの発電装置から複数の住宅に電気と温水などの熱を供給する装置で、住宅の隣にある地域暖房からロス無く電気と熱を取る仕組みです。またパッシブハウスと呼ばれる太陽光を生かす住宅は、40~45センチもの断熱材が壁面に入れられ、地域暖房と併せ無暖房で冬でも17、8度の室温を確保できる仕組みが実現しています。

ヴォーバンの集合住宅

ヴォーバンの高断熱・高気密の集合住宅

 こうした住宅改装は地域の実情に合った細やかな配慮が必要なため、地域の工務店に新たな仕事が生まれ、むしろ新たな雇用が生まれています。

 「世界で一番寒い住宅に住んでいるのは、東北の方々です」。村上さんのその言葉の衝撃と同時に、省エネとエネルギーシフトへの取り組みこそ、地域の中小企業にしかできない挑戦であることに、心震えるものがありました。

 その想(おも)いが確信に変わったのは、次の訪問地ミュンヘン、そして稼働直前までつくりあげた原子力発電所を住民の力で止めた、オーストリア、ツヴェンテンドルフの原子炉内部を見た時でした。

岩手同友会事務局長・菊田哲(12月5日号へつづく)

「中小企業家しんぶん」 2013年 11月 15日号より

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