福島同友会・安孫子理事長に聞く
前号では福島同友会の渡部いわき地区会長・高橋相双地区会長に地域の現状や会員の動向などを聞きました。今回は福島同友会・安孫子理事長に福島県の現状や会員の動向、そして来年3月に福島で開催される第42回中小企業問題全国研究集会(2012年3月8~9日、主催・中同協、以下「全研」)に向けての思いなどについて聞きました。
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この1年間、福島県は3月11日の大震災、原発事故による放射能汚染や風評被害に加え、7月末には南会津の豪雨災害、9月の台風15号による県中県南地方の大水害など、県民が大変な被害の中に置かれた年となりました。
原発による被害は別にして、復旧復興に向けてという意味では、業種によっては忙しい部分も出てきています。しかし、企業の再生・復興のため求人を出しても応募がありません。放射能汚染により、子どもを持つ家族構成の方が、他地域や県外へ避難し、働き手の年代の人たちが少なくなっています。それが企業の復興にも足かせになっています。
多くの中小企業家は、「地域に生かされている」「福島が好きだからここを何とかしたい」「ここで企業活動を続けていこう」という気持ちがあります。一方、大企業の中には本社を移転しようという動きも出てきています。海外のバイヤー・取引先が、福島県内に入りたくないという声があるのではないかと思います。今後の推移が心配です。
逆に、先日は世界的に著名な投資家がいわき市を訪問するなど、希望のもてる動きもあります。
建設業や一部のサービス業関係では、求人と求職のミスマッチが生れています。被災者への金銭的援助はもちろん必要ですが、仕事に就くということを支援する施策を進めていく必要もあると思います。
避難されている方々は、今後どのようになるか、見通しが立たない状況です。まず政府が見通しをきちんと明らかにする必要があります。いずれ元の地域に戻れるかもしれないという思いがあるので、正社員になることに二の足を踏むというところがあるのではないかと思います。また、見通しが持てない状態を9カ月も続けていると、心の問題が発生してこないか心配です。社会全体で支援していく必要があります。
何をおいても、社員にとって安心・安全に働ける環境を構築していくことが大事で、そのためには除染が重要です。最近、国が放射線量の高いところでモデル事業を始めました。ゼネコンが中心になって効果的な方法を研究するということですが、実際の作業は、県内の企業が下請という形で行うことになることが予想されます。地元の企業は一番危険で、下請という不利になりがちな構造の中で仕事をせざるを得ません。復興に向けて地元企業を活用するという理念はどこにいったのでしょうか。
風化させないために全国に発信を
被災自治体には、他県から職員が派遣されていますが、遠方の自治体から来たある職員は、普通の生活をしていることに驚いたと言っていたそうです。向こうでは、外出の時はみなマスクをして、防護しながら生活をしていると思っていたらしいのです。ところが実際に来てみると全然違うという訳です。
もっとあるがままの姿を、全国に発信していかなければと思います。われわれはやっているつもりでしたが、なかなか届かないという思いがあります。
風評被害も深刻ですが、今、この問題が「風化」することを非常に恐れています。「あれは福島だけの問題」と1つの地方の問題に押し込められてしまうのではないかと危惧しています。
その半面、最近では福岡同友会の皆さんが被災した中小企業の応援歌のCDをつくろうという動きもあるとのこと。全国で多くの方がそのようなことを考えてくれていると思うと、非常に心強い気持ちになります。
全ての活動を復興につなげて
福島同友会では、震災以降、例会、専門委員会の活動など全ての活動を復興に向けての活動にリンクさせるという方針でやってきています。被災した会員でも立ち上がって企業の再建に取り組んでいる方が多くいます。「なぜできたのか」話を聞くと、経営理念・経営指針を持って全社員で共有していた。それが大きかったということです。そして「労使見解」を理解している経営者は、大変な状況の中でも、復旧復興に向けてきちんと足取りを進めています。このことを全会員が共有する必要があると思っています。
県内の各地区同士や会員同士の連携は、皆さん、今まで以上に感じていると思います。大変な痛手を被(こうむ)りましたが、同友会の絆が強まった年でもありました。皆さん、同友会に入っていて本当に良かったと感想を述べています。「同友会に入っていなかったら、また事業を再開しようとならなかった」という方もいます。この体験を整理して、後世に残していくことも必要かと考えています。
各団体とも連携して、国などへの要望活動なども行っています。国・行政にはしっかりと受け止めてもらい、早い対応をお願いしたい。また、同友会として行政の復興ビジョン会議などに参画しながら、参考人として同友会(地区)が招請され、会員が地域の現況や復興に向けての提言などを発言しています。
震災直後の安否確認では、事務局が主体になり、電話やメール、e.doyuなどいろいろなツールも使って、本当に一生懸命にやってくれました。だから早い段階で会員の安否が確認できました。その後の各地区の活動再開や、各企業の復旧復興にあたっても、いろいろな情報を提供し、親身になり、経営者と同じ気持ちで取り組んでくれました。これこそパートナーシップであり、今回の震災ではそれが本当に発揮されました。
当社の状況
当社は補償コンサルタント・測量・建築設計などを行っています。公共工事の調査などの仕事が中心ですので、震災により契約が解除されたり、受注がない状態が続きました。ただここに来て、復興に向けて少しずつ動き出しています。
震災直後、当社のある郡山市は屋内退避などの指示はありませんでしたが、3月いっぱいは社員は自宅待機としました。4月1日からは全員が出勤し、幸い現在まで誰ひとり辞めていません。仕事があまりなかった時は、ボランティア的に被災者支援をしたり、復興に向けて当社では何ができるかを部門ごとに検討したりなどしてきました。
幸い、内部留保がありましたので、「この1年は仕事がなくても大丈夫」と社員に伝えることができました。
今後は被災地の街の再生、街づくりなど、復興に向けて寄与できるような仕事に取り組んでいきたいと考えています。
全研で復興への決意を
私たち中小企業は地域の土壌によって育てられています。その土壌が今、疲弊してきています。私たちはそれを豊かで活力あるものにしていく責務があると考えています。
そのためには、同友会の会員を増やしていくことが重要です。福島同友会は、現在、残念ながら会員数は少しずつ減少しています。来年3月の全研に向けて、全県に会員を広げていきたいと思います。
全研は、全国の皆さんの後押しで「やるぞ」と決めさせていただき、県内会員が一丸となって準備を進めています。ぜひ来ていただいて、福島県の現況を見ていただきたい。そして、皆さんの支援がどれだけ心強かったかを見ていただければと思います。
そして全研を通して、地域の復興に向けて、中小企業が一丸となって進めていくぞと、決意を共有していきたいと思っています。多くの方にいらしていただければと思います。お待ちしています。
「中小企業家しんぶん」 2011年 12月 15日号より