ニュース - シリーズ【復興-我われが牽引する】

強い絆のもと、われら断じて滅びず!~震災からの復興に向けて

福島同友会いわき地区会長・相双地区会長に聞く

 東日本大震災から約9カ月が経過しました。地震・津波の被害に加え、東京電力福島第1原子力発電所の事故と風評により、いまだに甚大な被害を受け続けている福島県。地域の現状や会員企業の動向、そして来年3月に福島で開催される第42回中小企業問題全国研究集会(2012年3月8~9日、主催・中同協、以下「全研」)に向けての思いなどについて、福島同友会の渡部明雄いわき地区会長、高橋美加子相双地区会長に聞きました。

 

厳しい状況の中、未来志向でがんばる会員企業~地区会員が一丸となって大震災からの復興を

福島同友会いわき地区会長 渡部明雄氏(アース建設(株) 代表取締役)

厳しい地域の現状

 いわき市内の状況は、唯一、建設関係が復興需要もあり仕事が増えてきています。一方、社員を募集しても集まらないというミスマッチが生まれています。仕事が出てきても、やる人がいないため、こなしきれないのです。

 建設関係は冬の時代が長く、この14~5年の間、仕事が少ない状況が続いていました。そのため作業員が4分の1くらいにまで減ってしまっていたのです。ですから、大きな仕事は県外から大手ゼネコンが入ってきて行い、地元の中小企業は元請になれなくて、どうしても下請に甘んじているのが現実です。

 震災の被害で職場がなくなったり、また、いろいろな補償などがあることもあり、市内では今、多くの人が仕事から離れている状況にあります。もちろん、震災で家族や家などを失った方が、心を癒すには相当な時間がかかると思います。一方、長い期間、仕事から離れることで、働く意欲が低下してしまう人も出てしまわないかということも危惧しています。

 サービス業も同じで、第一線で働く人が少なくなってしまい、サービスが行き渡らない状況があります。医療関係などは、看護師不足で困っているところも少なくありません。

 米も売れていません。放射線量は出ていなくても、福島産というだけで売れません。今まで無農薬有機栽培で作った米など、「ぜひ買いたい」など言われていたものが、「安ければ買ってやる」というところもあります。それが現実です。

 水産関係も漁は全くしていませんし、地域の水産物を加工販売していたところも大きな打撃を受けています。第1次産業は全て厳しい状況です。震災前は観光客でにぎわっていた水族館も入場者は7割減とのことです。

奮闘する会員企業

 大変な状況の中ですが、会員はそれに屈せず、みな元気です。未来志向でがんばっています。やはり理念がしっかりしているからだと思います。

 例えば、仮設住宅建設の仕事では、いわき地区の会員が新しい企業を立ち上げ、県産材を使った仮設住宅を提案し、受注できたところもあります。これは中同協からの情報を事務局が流してくれて、それを得てがんばった成果です。

 他地区の会員から「工場を移転したいので紹介してほしい」などの相談がいろいろ寄せられました。地区内の会員からも「会社が半壊したので、いいところはないか」という相談などもありました。全て事務局を中心にして情報を集約して、解決することができました。今回の震災では、改めて事務局の大切さ、中同協の情報の大切さなどがわかりました。

行政からも頼られる同友会

 政策提言は県同友会とリンクしながら、そこを軸にして動いていきたいと思います。最近は、逆に行政の方から「どうでしょうか」と話がきます。市長との懇談会も9年目となり、しっかりした経済団体として認められてきています。同友会が学びの活動を徹底して行っているのが評価されてきているのだと思います。

 昨年、同友会などの力が国を動かし、中小企業憲章が閣議決定されました。地域では、われわれが他団体も巻き込んで、中小企業振興条例づくりをしていきたいと考えています。

 地区としては、他団体に先駆けて東電の担当者を呼んで補償問題の説明会を開きました。また会員の有志で一般社団法人をつくり、除染など地域の困りごとを解決する事業を行うことも準備中です。

 東日本大震災関連の倒産件数は、阪神・淡路大震災時の3~4倍のハイペースで推移していると言われています。これからますます大変になることは明らかです。各省庁もさまざまな支援施策を出してきていますので、今のうちに業態の転換や新事業の立ち上げなどをめざしていかないと、企業は淘汰されてしまうのではないでしょうか。

新事業で雇用の場を

 本業は建設業ですが、3年前に私も理事となり、農事組合法人いわき菌床椎茸組合を立ち上げました。もともとは林野庁が食糧の安定供給、自給率の向上のためにシイタケ栽培事業に取り組むところを募集していたのがきっかけです。林野庁の事業認可も受け、プラントをつくり、屋内栽培でシイタケをつくっています。高校を卒業した若者がみんな東京に出ていってしまう。それを何とかしたい。雇用の場をつくりたいとの思いがありました。

 ところが、原発事故があってすぐにお客さんから「出荷を自粛して」との連絡があるなど、大きな売上ダウンとなりました。現在でも前年比で3分の1、4分の1の売上です。それに放射線量について、国の基準値が毎日のように変わるのです。厚労省が500ベクレルと言っていたのが、経産省が300ベクレルと言い、次は林野庁が150ベクレル、すると厚労省も100ベクレルと言う。これは生産者としては困ってしまいます。当法人はクリアしていますが、それでも新聞などで少しでも「福島で放射線が出た」となるとすぐキャンセルです。しかし、雇用は守らなければなりません。

 今は厳しいので資金繰りなども大変ですが、プラントを増設中です。増設すれば雇用も生まれます。今後を見据えて地元の大学などとコラボして、産学官連携でシイタケの効用について研究しています。産学官連携も同友会で学んだことです。

がんばっている姿をお見せしたい

 今回の震災では、全国から義援金やたくさんの「思い」をいただきました。それで助かった企業がたくさんあります。行政も一生懸命対応してくれてはいましたが、同友会の対応はすばらしく早かった。本当に感謝しています。ですから来年の全研では、「私たちもかんばっている」ということを全国の皆さんにお見せしたいのです。ぜひ福島にお越し下さい。

 

地域と企業の存続をめざして同友会のネットワークを力に奮闘する会員企業

福島同友会相双地区会長 高橋美加子氏((株)北洋舎クリーニング 代表取締役)

復興計画についての提言書を準備

 市の一部が警戒区域や計画的避難区域となっている南相馬市の人口は、震災前は約7万人でしたが、現在は約4万人です。9月30日に緊急時避難準備区域指定は解除され、1000人くらいはもどってきましたが、まだそれほど多くはありません。安心した環境にならない限り、緊急時避難準備区域指定が解除されても前と変わりません。

 現在、相双地区として「南相馬市復興計画についての提言書」を準備しています。先日、中同協の企業環境研究センターの先生方にも来ていただき、貴重なアドバイスもいただきました。提言書では「避難者の帰還」と併せて他の地域からの「移住」なども提言しています。住みやすい街をいかにつくるか、街づくりそのものが中小企業の仕事づくりにもなります。

 提言書の中では、「いのちと暮らしと経済」が循環する街づくりということを掲げています。例えば子どもが育つ環境づくりが必要ですが、これは私たちの雇用環境と直結しています。そこが整備されなければ人は戻ってきません。縦割りではなく、全部がつながっているのです。

 外に出ていく企業もありますが、存続のためにはやむを得ないと思います。業種によっては、本社が南相馬にあることで商売がしづらいところもあるのでしょう。願わくは本社だけは地元に残して欲しいのですが…。

避難先で奮闘する会員企業

 警戒地域内に会社があった地域の会員は、休業している方、避難・移転先で事業再開した方、さまざまですが、皆さんがんばっています。

 避難先の仮設住宅群は、以前の地域ごとにある程度固まっていますが、会員の中には、地域の行事を絶やさないようにと避難先の何カ所かで盆踊りなどを開催した方もいます。警戒区域が解除されて、戻った時にコミュニティがなくならないようにと、地域の存続のために心血を注いでいるのです。その気持ちを考えると本当に胸が詰まります。

 また、移転を余儀なくされたある会員は、社員を呼び戻すには県内の方がいいと、敢えて県内に工場を新設しました。1度は避難などで離ればなれになった社員の人たちの「また働きたい」「戻りたい」という声に背中を押されて「何とか事業を再開しよう」という気持ちになる方も多いのです。こうした社員との「絆」は中小企業ならではのことだと思います。

 音楽教室や学習塾を経営していたある会員は、警戒区域内に教室があったので、全く営業できなくなってしまいました。しかし、避難してバラバラになってしまったかつての生徒さんたちから「お互いにつながっていたい」という強い要望があり、それが励みなって福島市に教室を開くことができたのです。

同友会のネットワークと事務局の役割

 他の地域で事業を再開するにあたっては、その地域の同友会のメンバーに不動産の紹介などいろいろな点で助けられています。経営者としての使命感、そして同友会の仲間からの支えがあって事業を再開できたという話をたくさん聞きます。同友会のネットワークが本当に機能していて感謝しています。

 それには事務局が大きな役割を果たしています。会員からの相談ごとは、それぞれの人生がかかっていることばかりです。それに対して、事務局が本当に自分のこととしてあたってくれているので、本当の意味でのネットワークができているのだと思います。

 仕事づくりの点では、意識を変えて新しい価値観でものごとを進めていこうということを会員に呼びかけています。これまでの拡大志向だけではものごとが行き詰ってしまいます。拡大志向だけではない「新たな視点」が必要です。つまり高いクオリティをめざすということ。それが今問われていると思います。これは原発事故に遭おうと遭うまいと、これからの時代には必要なことです。

全国からの支援が力に

 全国の同友会の皆さんからは多くの義援金をいただき、3月から4月の早い時期に福島同友会の増子専務理事が何回も足を運んでくれて、会員一人ひとりに手渡ししてくれました。

 あれが大きかったですね。「動きださなくちゃ」というスタートになりました。同友会は全国組織ですごい会なんだ、全国の人たちが私たちのことを心配してくれているんだと実感しました。

 震災直後に開いた特別例会は、そのこともあり、「全国の人たちとつながっているんだ」とすごい盛り上がりでした。今でも語り草になっています。

 正念場はこれからです。中小企業憲章がみんなの拠り所になってくれればいいなと思います。私たちのプライドが、あの文章の中には表明されています。絵に描いた餅にはしたくないです。

「復興需要後」への危機感

 当社はクリーニング店を直営6店舗、取次店を1店舗経営しています。12月決算で、毎年3月後半から6月が繁忙期でしたが、今年はそれが全然だめでした。前年比で80%は割っています。今、復興景気もあり、それを取り戻そうとがんばっていますが、商圏の3分の1はなくなりましたので、来年はどうなるか予測がつきません。復興需要はありますが、それに浮かれている人は誰もいません。そのあとの危機感の方が大きいのです。

 震災直後、避難のため社員は半分くらいになりましたが、少しずつ戻ってきてくれて、今は19名でやっています。12月にも、避難先から南相馬に帰ってくる20代の元社員が、「よそに出て北洋舎の良さがわかりました」と会社に戻ってくることになりました。うれしいことです。

 国は何でも地方行政の自主性に任せると言いながら、地域の頭ごなしに決められてしまうことが多いように思います。東京電力の賠償問題も国がもっと力を入れて、しっかりと賠償が進むように指導してほしい。私たちが要望しているのは、存続をかけたギリギリの要望です。

 来年の全研のメインテーマは「震災1年、強い絆のもと、われら断じて滅びず!」です。「断じて滅びず」と、かけ声をかけざるを得ない状況にあるということを国にはわかってほしいのです。

ぜひ福島に来て下さい

 来年の全研にあたって全国の皆さんにお願いしたいことは、「ぜひ福島に来て下さい」ということです。来てみなければわからないことがたくさんあります。カタカナの「フクシマ」が本当の「福島」を取り戻すために、まず福島に来てこの状況を共有していただきたいのです。今回の全研は本当に「参加することに意味がある」のです。ぜひお越しください。

「中小企業家しんぶん」 2011年 12月 5日号より

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