持続可能な循環型地域経済を支える中小企業
8月18日に企業環境研究センター8月例会が東京同友会会議室で開催されました。吉田敬一駒澤大学経済学部教授の報告を紹介します。
復旧復興の二重構造
震災は日本経済の問題点を暴露しました。まず復旧・復興の二重構造の問題です。自動車・エレクトロニクスなどのグローバル企業では事業が本格稼働に入ったが、地域密着の中小企業の復旧が進んでいません。帝国データバンクが7月22日に発表した調査結果によると津波と原発による被害が大きかった地域での6月末時点の「事業再開」は51%と半分程度にとどまっています。また政府の中小企業対策が決まっても、被災した自治体では建物・資金・資料・機材の不足や、担当者が少ない問題もあります。4月に宮城県の気仙沼を調査した際、被災企業に別枠100%の信用保証を行うという情報が一部の金融機関には届いていませんでした。
資源・エネルギー多消費型経済の問題点
日本は1世帯あたりの電気使用量がドイツの2倍以上で、その原因としてオール電化住宅等の過度の電力依存構造があります。個性的であるはずの家庭生活が市場経済に飲み込まれているのが日本の特徴です。高い省エネ技術の裏側での資源・エネルギー多消費型経済の見直しが必要です。また環境省の調査によると、自然エネルギーを確保していけば10~20年先には原発に頼らなくてもやっていける展望があります。現在でも約60の自治体は地域内でエネルギーを自給しています。こうした既に生まれている芽を育て広げるという意思を政府が持てるかどうかが問題です。
成長至上主義の行政機構・経済体質の問題点
NHKの番組「追跡AtoZ」(8月12日放送)では原発の下請け労働について、東電が認めているのは3次下請けまでだが、実際には3次下請け担当者の社員証をもらった6次・7次下請けの労働者が働いている実態を報じました。また原子力安全保安院が原発労働者の不足状態を回避するため、年間の被曝量制限に対して福島第一原発での被曝は例外措置とするよう厚生労働省に求めていました。原発の安全性を検証する機関が人間を消耗品扱いするという恐るべき事態です。国は中小企業には市場原理を貫徹させつつも大企業・財界には優遇的に管理している問題があります。
地域内経済循環力の強化と中小企業の役割
岩手県住田町は平成の大合併の時に合併しない道を選び、森林資源を軸にした町づくりをめざしてきました。宮大工の技法を持った気仙大工による地元の気仙杉を用いた本格的木造建築が盛んな地域です。震災後、行政が主導して木造仮設住宅の建設を進めました。大手メーカーの長屋形式のプレハブとは違い、ちょっとした別荘のように使える仮設住宅です。豊かな生活につながる文化が被災地に存在しています。独自のライフスタイルをそれぞれの地域が打ち出していく課題が鮮明になっており、その中で地域密着型の中小企業の役割がますます重要です。
持続可能な成熟志向のグローカリズム化の道へ
復興をめぐっては、成長至上主義のグローバル化の道か、それとも持続可能な成熟志向のグローカリズム化の道か選択が問われています。前者の一環として出てきているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は「平成の開国」がうたい文句ですが、そもそも日本は既に12カ国1地域とFTA(自由貿易協定)かEPA(経済連携協定)を締結している開国状態です。TPPはアメリカが中国に対抗するためのブロックの形成と、日本の多国籍企業が企業内国際分業をやりやすくするのがねらいで、中小企業や多くの国民の利益には結びつきません。
このような道ではなく、中小企業憲章前文が示すような「中小企業が社会の主役」の精神での復興が重要です。そして地域の自立性にゆだねる形で、国は地域から求められる支援策を的確かつ十分に行っていくことが求められます。
「中小企業家しんぶん」 2011年 9月 15日号より