ニュース - シリーズ【復興-我われが牽引する】

地域に希望の光を放つ中小企業家(後編)

  前号に続いて、8月に企業環境研究センターの視察で被災地を訪問した中平中同協事務局員から、企業の現状、地域の人々の状況を聞きました。

 前号で二重債務の問題が深刻という内容を紹介しました。岩手・大船渡の会員さん、宮城・気仙沼の会員さんはそろって、国の責任で二重債務問題の即時解決が必要と指摘していました。この方々は巨額の借金をしてでも何とか事業を再開しようという意欲を維持していて、しかも、地域への雇用責任を強く意識されています。津波で壊滅的被害を受けながらも、経営意欲を保持して事業を再興しようと取り組んでいます。経営の実績があり、しかも地域復興に貢献しようというリーダーにお金が回らない、政策的バックアップが行き届かないというのは、深刻な事態と痛感しました。大船渡の会員さんの「国は本当に復興しようという気があるのか」という言葉が重く響きました。

 

働く人がいない

 さらに深刻なのは地域の人々の状況です。宮城・仙台では産廃業者の方にがれき撤去の話を聞きました。日当1万7000円のがれき撤去の仕事に応募がないとのこと。大船渡の会員企業ではハローワークに求人しても応募がないといっていました。

 現在、津波の被災地で失業した人は、失業保険給付で生活している人が多いようです。求人に応募がないということは、失業保険給付期間が切れてから働こうとしているのか、あるいは、もうこの地域で働いて生活を成り立たせるのは無理だと感じているのかが考えられます。もし同友会会員の企業などが果敢に営業を再開したとしても、そこで働こうという人がいなければ地域と企業は存続できません。地域経済循環全体のなかで意欲を持って働こうという人がいなければ、地域復興は困難になります。

 事務局の方から宮城・石巻を案内してもらった時にアミューズメント施設が連日大入満員と聞きました。就業と生活再建をめぐる地元の方々の複雑な心境の一端に触れた思いがしました。

 

地域の展望が見える復興方針が必要

 こうした状況だからこそ、政府や自治体、あるいは同友会を含めた経済団体だけで復興方針やビジョンを考えて決めるのではなく、そこに暮らし、働いている人々自身が、「やはり地元地域で働いて生活を再建していきたい」と強く願い、地域の展望も見えてくるような復興方針やビジョンが必要だと思います。同じ地域に生きる人間として同じ目線で考えて決めていくことだと。そうした希望やビジョンがないと、失業保険給付期間が終わった後、地域では大量失業と大量人口減少につながりかねず、地域存亡の危機に立たされる危険性があるのではと感じ、背筋が寒くなりました。

 

地域に希望の光を

 こうした状況のなかで、同友会企業は率先して復興の先頭に立ち、地域に希望の光を放っています。

 宮城・気仙沼で訪問した企業は、本業の水産加工の工場は全壊的被害ですが、地域に希望を灯し雇用を生み出そうと、全く別業種である、帆布カバン製造小売を開始しました。気仙沼帆布・GANNBAARE気仙沼というブランドで、気仙沼のシンボルともいうべきイカリをあしらったデザインです。知り合いの愛知・豊橋の織屋さん、岩手・花巻の染屋さんの協力で製造して小売販売しています。発売当初から大反響を呼び、生産が間に合わない状況です。現在は約10名の従業員ですが、仮設住宅から通って働いている従業員の方も3名いて、元気に前向きに働いているとのこと。社長さんは「本当は100人くらい雇用したい」、「何かしていないと気持ちが切れてしまう」と津波直後から新事業を立ち上げた理由を話しました。

 

同友会運動が培ってきたもの

 津波はそこに暮らす人々の命とともに遺された人々の生きる意欲をも持っていってしまうくらいに残酷な被害をもたらしました。

 しかし今回、岩手・宮城でお会いした会員経営者の皆さんは希望を失っていないことに驚かされ、こちらが励まされる思いでした。こうした企業をありとあらゆる方法を用いてバックアップするのが政府自治体の政策の本義だろうと考えると同時に、同友会運動が培ってきたものの価値の大きさ、そしてさらに今回の復興の過程で鍛えられていくだろうという思いを強くしました。
(連載終わり)

 「中小企業家しんぶん」 2011年 9月 5日号より

▲ このページの先頭にもどる

中小企業家同友会のサイトへ中同協とは相双地区 震災記録集 電子書籍
© 2013 - 2024 中小企業家同友会全国協議会