地震と津波に加え、原発事故と風評被害の「四重苦」の中にある福島県浜通り地方。福島第一原発の水素爆発などもあり、震災直後は多くの住民が避難を余儀なくされた地域です。この地域をエリアとする福島同友会相双地区といわき地区には、地域や住民のために奮闘する多くの会員企業の姿がありました。
全社一丸で被災者を避難所にバスで送る
(株)昭和観光バスの岡本吉輔社長(本社・南相馬市、相双地区会員)は、南相馬市からの要請を受け、震災直後の11日間、次々に避難する市民をバスで新潟・群馬・長野などの避難所まで運びました。当時、30キロ圏内にあるバスは同社のバスしかなく、国が依頼したバスも30キロ圏内には入りませんでした。同社の社員は26人ですが、「誰ひとり『避難しよう』と言わなかった。責任感があった。本当に社員には感謝している」と岡本氏は語ります。
しかし、風評被害もあります。この取り組みはテレビでも放映されましたが、県外のある顧客からは「放射能が残っているかもしれないから避難に使ったバスは寄こさないで」と言われることもあるとのこと。
ぜひクリーニングしてほしいと頼まれて
クリーニング店直営5店舗、取次店1店舗を経営する(株)北洋舎クリーニング社長の高橋美加子氏(相双地区会長、本社・南相馬市)。3月14日、原発の水素爆発でいったんは市外に避難しますが、預っている品物が気になって23日には南相馬市に戻ります。市内はゴーストタウンのようになっていましたが、預っている品物を本店に集め、一人ひとりの顧客に連絡をします。はじめは「預っている品を返すだけ」のつもりでした。しかし、市内に進出してきた大手をはじめ多くの同業者が店を閉めている中、多くの顧客から「ぜひクリーニングしてほしい」と頼まれます。考えてみると家庭では洗えない衣類も多いことに改めて気づき、可能な範囲でクリーニングを再開。朝シャッターを開けると、顧客が並んで待っている状態になります。「改めて自社の仕事の社会的価値がわかった」と語ります。
一方で高橋氏は会社のホームページなどを使って原発や地域に対するさまざまな思いを発信しています(7月5日号に関連記事)。高橋氏は「大企業が地域から出ていっている中、このままでは街がどんどん縮小してしまいます。国や東電は、常設の相談窓口など、私たちがこの地域に安心して暮らせるような体制をつくってほしい」と訴えます。
地域に元気を発信 したいと営業再開
いわき市でセブンイレブンいわき豊間店を経営する金成伸一氏((株)定勝丸ストアー社長、いわき地区会員)は、津波で店舗が全壊しました。震災当日は、車で店舗から3~4キロメートル離れたところを走っていた金成氏。大きな揺れに驚きます。車のラジオでは「15分で津波が到達」と流れます。しかし街中にある津波警報機は停電で作動しません。金成氏は街を走りながら、「津波が来るぞ。逃げろ!」と知らせます。店に戻り、社員に「みんな逃げろ!」と伝え、近くの自宅に帰って家族と高台に避難。間一髪で助かりました。
しかし、地元では約250人の方が亡くなりました。地域の人たちの気持ちがふさぎこんでしまいがちです。また離れたところに新しく住居をあてがわれて出ていく人もある中、金成氏は「このままでは地域が成り立たなくなる」と危機感をおぼえます。フランチャイズ本部からの支援もあり、金成氏は5月9日から仮設店舗と移動店舗での営業を開始します。仮設店舗は全壊した店舗前にテントを張ってのオープンです。
金成氏は「父の代から約60年、地元で商売をさせてもらっていて、地域には感謝しています。その地域に元気を発信したいと思い、再開を決意しました」と言います。営業を再開してからは、地域の人からも喜ばれ、「励ましになっている」など、多くの声が寄せられているそうです。
一方で風評被害も深刻です。かまぼこなどを製造・販売する(株)かねまん本舗(本社・いわき市、遠藤貴司専務、6月25日号に関連記事)は、震災後、売上が7~8割減という厳しい状況です。原料は放射線の影響のない地域から仕入れ、全ての調達地を店内に表示しています。それでも、大きな割合を占めていた観光客が激減していることが影響しています。
大丈夫だということを知ってほしい
自社工場でしいたけの製造・販売を行っている農事組合法人いわき菌床椎茸組合(渡部明雄理事、6月25日号に関連記事)も震災後の売上が一時半分以下になりました。中には「買ってあげるから3~4割値引きしろ。それくらいしないと福島産のものは売れない」と要求してくる取引先もありました。
いわき地区会長も務める渡部氏(本業はアース建設(株)社長)は次のように語っています。「いわき市は実際の放射線量なども低く、大丈夫だということを知ってほしい。原発問題や風評被害もあり複雑ですが、われわれから地域を復興させていきたい。全国からの支援には本当に感謝しています。義援金は大変ありがたかった。e.doyuや『中小企業家しんぶん』でさまざまな情報が入ってきたのがとても役立ちました。しっかり支えてくれた事務局にも感謝しています。今後、本当の復興には同友会会員を増やすことが一番。増強に一層力も入れたい。全国からもぜひ紹介をお願いします」。
「中小企業は、経済やくらしを支え、牽引する」。憲章で謳(うた)われているこの中小企業の役割を、それぞれの地域で、さまざまな困難にも負けず、実践している多くの姿がありました。
「中小企業家しんぶん」 2011年 7月 15日号より