ニュース - 東日本大震災関連情報

【岩手同友会】今からが本当に問われる、どんな時もぶれない経営理念

 震災からひとつの区切りとなる100日が過ぎました。

 各社の表情は、時間の経過とともに、大きな変化が出始めています。中でも盛岡をはじめ内陸部の直接被害を受けていない地域では、その差が顕著になってきています。

 3月11日震災直後は停電、ガソリン供給ストップ、コンビニでは人のことはお構いなし。自分を守るための乾電池、水、カップラーメンの争奪戦が繰り広げられ、忘れもしませんスーパーではキャベツが1個598円という値札が出たほどです。盛岡でも一週間は、便乗値上げや商品の出し惜しみが横行しました。両手一杯に抱えられないほど買い占めるお客さん。牛乳一本買うために血相を変えて並びました。それから一か月間は、どの企業も、営業活動はストップ。「思考停止」状態になった企業も多くありました。

 しかしそんな中でも、社長の強いリーダシップのもと、経営理念を貫き、社員と一致結束して動いた企業では、3ヶ月経過した現在、他社とは大きな差が出てきています。

 岩手県北部沿岸久慈市に、久慈琥珀(株)があります。社長の向正彰氏は、震災直後から現状を冷静に見極め、「思考停止になるな」と社員に叫び続けた一人です。琥珀(こはく)のアクセサリー、宝飾品の製造・販売をする同社では、30数店あるホテルの直営店で営業がストップ。全く売上げ見通しが立たない状況に直面します。このとき社長は全く焦ることなく最悪の場合を想定し資金を準備。1年分の人件費を確保し、社員を安心させます。同時に市場の徹底調査と、出来うる限りの情報収集を進め、新市場開拓と新商品の投入時期を緻密に練り、先手先手で手を打ってきました。

 しかしそんな中でも毎日社員から「私たちは被災地に何もできない。無力だ」という言葉が重ねられました。社員が下を向く中、社長が言い続けたことがあります。「私たちは無力ではない。今我われには、やることがある。日本のシステムが根本から崩壊した今、むしろこの機会に変われなかったら終わりだ。自分たちを変えるチャンスだ。」社内の行動パターンを根本から転換しました。

 残業は一切なし。時間内でやり切る。どんなことでもいい部分を徹底して強調、小まめに声をかけ、小まめに足を運ぶ・・・社内の体質は3ヶ月で根こそぎ変わりました。
 同社の経営理念は「琥珀との共生」新たな琥珀文化を創造し、世の中の多くの幸せに貢献、地域社会とも共生する企業。実は何百年、何千年と地中で眠り続け、生まれる琥珀には「再生」という意味があります。6月8日発売を開始した、琥珀を満足ゆくまでに使用した万年筆は、一本10万5千円。今この時期に打って出る意味は地域の「再生」を牽引する意志でもあります。「中小企業の底力が問われている。今動かなければ危ない。自社のあり方がどうなのか、徹底して問い直し、先手を打って動くこと」地域の再生は中小企業からしかスタートしません。

 岩手県の最南部一関市には、県内外のビジネスマンから人気の、蔵ホテル一関があります。震災後から、陸前高田や大船渡へのボランティアや医療チーム、マスコミなどの支援スタッフが訪れ、ずっと満室が続いています。

 震災直後、甚大な被害を受けた沿岸地域の同友会会員の安否情報が入って来たのは、蔵ホテル松田和也社長からの情報が一番始めでした。「安心、安全は当然のこと。命を守るのが私たちの使命」と24時間動き続けるホテルの全機能を活かしこの3ヶ月、社員とフル回転で復興への道のりを支えてきました。

 4月に起きた震度6の余震では、満室の室内が一瞬にして真っ暗に。突然のことにお客様はパニック状態に陥ります。しかしこんな時にこそ、経営指針の真価が問われます。社長が「以前だったら追い出していた」という大暴れするお客様。ゆっくりと話を受け止め、全身全霊でお客様のことを守ろうとする社員の姿に、次第に落ち着きを取り戻して行きます。そして翌朝には、満足ではないながらも、宿泊者全員に朝食が用意されました。どんな条件でもその時点で出来る最良のものを提供する。これから被災地に支援に向かう人たちの、大きな心の支えになってきました。

 実は陸前高田「けせん朝市」を影ながら支えてきたのは、この蔵ホテルです。同友会の枠を越え、独自に全国に声をかけ支援物資を募ってきました。 その荷物を背負って社長が朝市に出向いていく。社員はそれがなぜか知っています。「本当はうちだって被災者」そう言いたい気持ちをぐっと堪えて笑顔で接する社員。蔵ホテルに泊まったボランティアは、沿岸のがれきの撤去など一日へとへとになって、再び帰ってきます。ホテルのフロントにわざわざ、子ども用のおむつを持参するおばあちゃんがいます。九州からパソコンを送ってくれる見ず知らずの若者がいます。そしてホテルに泊まる溢れる報道陣一人ひとりに、夜な夜な、被災地の中小企業の現状を熱く語る社長がいます。

 ホテルは復興を支える拠点です。人が集い疲れた心と体を休め、再び奮い立たせて出発する。そして命を委ねられる場所なのです。

 この100日間、理念に徹底して向き合い、社員全員で考え、いち早く行動した企業では、全くぶれることありません。そしてこれから半年、1年先が本当の意味で、企業の真価が問われます。「何のために経営しているのか」そして「何のために生きるのか」どんな時もぶれないものは何か、が今問われています。  

▲ このページの先頭にもどる

中小企業家同友会のサイトへ中同協とは相双地区 震災記録集 電子書籍
© 2013 - 2024 中小企業家同友会全国協議会