【岩手同友会エネルギーシフト研究会 第5回欧州視察】連載(1)
岩手同友会エネルギーシフト研究会が主催する第5回欧州視察は、16名の参加で10月6日~15日の日程で行われました。今回はドイツ南部・フライブルク、スイス北部を中心に、中小企業のエネルギーシフト(ヴェンデ)の実践と地域内資源循環、そして持続可能な社会づくりへ向けた課題解決を掲げ、深く学び、語りあった9日間となりました。
どうすれば伝えることができるだろうか
2013年10月、中同協の欧州視察は、当初中小企業憲章と再生可能エネルギーの活用などの、欧州での中小企業の地域実践に学ぶことを主眼に置いていました。しかしながら、岩手や福島の東日本大震災の被災地から参加した私たちにとっては、疲弊しきった地域の中で、中小企業にとっての新たな活路、展望はないかを必死で探る視察でもありました。
それから5年、岩手同友会で取り組んできたエネルギーシフト(ヴェンデ)への挑戦は、全5回、約50日間に
及ぶドイツ、スイス、オーストリアの視察を実施し、のべ73名の参加者を迎え、地域と企業、そして私たち一人ひとりの生き方そのものについて、正面から向きあってきました。
5年間で重ねた学習会は100回を超え、各企業での実践に加え、大学、行政や金融機関の方々の参加も増え、岩手県内での取り組みが、点が線にそして面に徐々に広がってきました。
「どうすればこの目で見てきた鮮烈な映像を伝えることができるだろうか」。模索しながら声を出し続けた5年間であった、と言っても過言ではありません。「エネルギーシフト」、または「エネルギーヴェンデ」という言葉で掲げたその取り組みはなかなか理解が広がらず、今現在もまだまだ、厚い壁にぶつかっているようにも感じます。それは私たち中小企業での実践が、まだ迫力を持って広がっていない背景もあります。
5年前に欧州を訪れた当時は、大震災をきっかけに人口減少が急激に進み、少子高齢現象に拍車がかかり、本当に先行きが見えない環境下でした。岩手県内の企業では後継者がおらず廃業や企業譲渡する例が増加し2年間で5000社近く減少、働き手がいない、と報道では毎日のように叫ばれていました。そうした「地域の危機、閉塞感を打破しよう」と試み続けたとき、新たに生まれたのはさらに深い閉塞感でした。
全国へ確かに広がり始めたうねり
私たちが見た100年、200年先を見据えたドイツの森林には、常に地域に暮らす人々が、寄り添っていました。乳母車でお母さんと子どもたちが森へ続く山道で森林浴を楽しむ様子や雪が降る山道を笑顔でハイキングする年配の方々。そんな様子を信じてもらえるだろうか。植林と皆伐を繰り返す日本の森林業をどうすれば変えていくことができるだろうか。
ドイツやスイスでは40センチメートルの壁厚の建物や樹脂製のトリプルサッシ窓が一般的、これは地元中小企業にしかできない仕事。新たな仕事づくりにつながる。これをどうしたら、見たことも聞いたこともない日本の技術者の方々に信じてもらえるか。恐らくどんな世界でもぶつかる現実なのだと思います。「どうしたら伝えられるだろうか」。常にモデルを掲げ、映像や言葉を通して実感できる場面をつくり続けてきました。
平泉ドライビングスクールの校舎新築では、地元工務店の若手社員が、高断熱建築施工の技術をOJTでマスターし、地域の唯一の技術者として誇りを持って臨むようになりました。2年目の冬を迎え、ドライビングスクールに通う生徒さんの数は毎月増加しています。
そうした努力の積み重ねは時間はかかっても、必ず新たな躍動を生み出す原動力になります。確実に着実に全国各地に企業でのエネルギーシフト実践への火種を広げてきました。今回の視察では宮崎同友会から代表理事、事務局長、次長、そして県の商工観光労働部長経験者が一緒に参加し、宮崎のありたい未来図を掲げ、広げた大きな風呂敷をもとに、帰国した翌日、早速宮崎県の担当者との懇談に臨んでいます。
また石川同友会から参加された支部長さんは、5年前の中同協の視察にも参加し、今回意を決して再度欧州の地を踏みました。そしてその感動は、帰国後の中同協の地球環境委員会で語られ、確かなものとして伝播し始めています。
繰り返し問い続ける中で見えてきたもの
私たちは当初、あまりにも違いすぎる欧州の文化や町の雰囲気に目を奪われ、憧れにも似た感情でエネルギーシフト(ヴェンデ)の実践を見てきたように思います。それが「欧州は日本の20~30年先を進んでいる」という言葉になって伝え発していました。
しかしながら毎年何度も同じ場所を訪問し、同じものを繰り返し問い続けることで、本質は私たちが日常経営の根幹に置いている、同友会の理念とまったく同様である。何ら変わりない、人間として希求している本質的なことであることに気づくことになります。
岩手同友会事務局長 菊田 哲
(1月15日号に続く)