【PART2】
東日本大震災から5年が経ちました。いまだに被災した地域には大きな爪あとが残っています。中同協ではこの5年間の宮城・岩手・福島の取り組みを中心に震災記録集を発行する予定です。記録集のために行われた座談会の概要の第2回を掲載します。
司会 広浜 泰久・中同協幹事長
メンバー
鋤柄修・中同協会長
田村滿・岩手同友会代表理事
佐藤 元一・宮城同友会代表理事
安孫子健一・福島同友会前理事長
増子勉・福島同友会 福島REES担当常任理事
瓜田靖・中同協事務局
【岩手同友会】田村 滿氏
「1社もつぶさない、つぶさせない」をスローガンとして
震災直後、まずは自社をどうしたらよいかということを考えました。わが社は、社員、生徒の安否確認がとれ、生徒を自宅に帰しました。その後、岩手同友会事務局から連絡が入り、全国からの支援物資を集め、新潟・山形・秋田から陸前高田に支援物資が届くという情報が入りました。そこで同友会の仲間が集まり、200カ所以上の避難所がある中で支援物資が行き届いていない避難所に全国からの支援物資を届けました。
同時に、気仙支部は「1社もつぶさない、つぶさせない」をスローガンとして震災前から活動していましたので、同友会会員だけでなく、被災した企業や経営者も含めて、1社もつぶさないと動きました。
教訓として雇用を維持するため内部留保の充実を
震災の被害のなか、私たちは社員の雇用を維持するよう会員や会員外の経営者に呼びかけました。中には先立つものがなく社員の解雇をしてしまった会社もありましたが、そういった会社は操業再開する時に深刻な人手不足の中で人材確保が課題となっています。現在、陸前高田は求人倍率が1・8倍となっています。
震災直後の教訓として考えなければならないことは、どれだけの内部留保があるか、それによって雇用を維持することができるかが重要であったと思います。企業の内部留保をできるだけ多く持つということ、震災直後の対応としては、支払いを留保してもらい、会社から出て行くお金をできるだけ少なくすることが重要です。そういった取り組みの中で、震災から1年半、気仙支部90社中88社が操業を再開しています。
地域の企業家の育成、雇用の創出にむけて
われわれは地域に根ざした企業です。地域がなくなってしまえばわれわれの存在価値がなくなります。2013年2月には同友会の仲間ともに、将来的に約500名の雇用創出、複数の事業を育成することを目的に復興まちづくり会社「なつかしい未来創造(株)」を立ち上げました。現在、40名の起業家を育成しているところです。この起業家たちが順調に成長し、10名の社員を雇用すれば、約400名の雇用を生み出すことを目標に取り組んでいます。
現在、いまだに仮設住宅で暮らしている人がいます。私は街づくりなど復興施策の提案をしてきましたが、それを市が実行していれば、もっと早く復旧・復興できていたと残念に思っています。陸前高田では、かさ上げが始まっています。商業施設がつくられますが、人口が減少していく中で、誰が入るのかとみんなが心配しています。このままいくと陸前高田が衰退していく恐れがありますので、私たち同友会ががんばっています。
【宮城同友会】佐藤元一 氏
経営指針は最大の武器であり最高の宝だった
この間の震災の取り組みの中でわかったことは経営指針が最大の武器であり、最高の宝物であるということです。各報道でも取り上げられる企業の半分以上は同友会会員でした。また、気仙沼、南三陸、石巻、東松島など宮城の被災地域で復興のリーダーシップを取っていたのも同友会の会員でした。それも経営指針を実践している会員が市民を巻き込んでリーダーとして復興を進めていました。
経営指針というのはいかに生き様がでてくるものかと改めて感じました。経営指針は同友会の最高の宝物であり、いかに深化させるかが基本であると感じました。経営指針を策定しているかどうかで全然違ってくると感じます。操業再開も経営指針をつくっているかどうかで違いました。
「地域に若者を残す運動」の大切さ
被害を受けた沿岸地域は加工業が多いですから、操業を再開して売るにも作るにも人材が必要になります。必然的に求人や人材確保が重要になってきます。2011年12月には、全国共同求人交流会in宮城を開催しましたが、宮城同友会の仲間も共同求人活動は「若者を育てる連携」「地域に若者を残す運動」であると大切さを改めて学びました。
宮城でも人材確保難が深刻ですが、共同求人活動において継続して取り組んでいる会社、規模が50名以上の会社が比較的採用で成果がでているようです。
また、2013年6月に人材育成と企業づくりを視野に東北学院大学と「包括連携」協定を締結し、2015年6月には東北大学、東北工業大学とも協定を締結しています。以前から宮城同友会で進めていた「仙台市中小企業活性化条例」が2015年3月に制定。地域に根ざした中小企業を育成するとともに、世界に羽ばたく中小企業を育成することも視野にいれています。このような実践をとおして宮城同友会への地域からの期待が高まってきました。
地域からの期待が高まる中で、宮城同友会では会員増強が課題となっています。1200名を目指して取り組んでいるところです。また会員の自主的・主体的な活動の展開も課題です。
南三陸町の行政と同友会が一体となった復興へ
また現在、南三陸町で全事業所調査を宮城同友会が委託受託事業として実施しています。
商工会会員480事業所(南三陸町の全事業の約8割)を対象に実施し、漁協、森林組合、農協のご協力、そして調査の設計・集計・分析を植田教授(慶応義塾大学)、菊地名誉教授(立教大学)にご協力いただきました。南三陸の実態を反映したデータとして、現在分析が始まっています。
中間報告では480事業所中、300社の回答で62・5%の回収率となりました。結果の概要については、「(1)南三陸町内全事業所の約9割強が被災、(2)被災を受けた企業の約8割は1年以内に再開(南三陸支部会員の95%が半年以内に操業再開)、(3)経営計画の金融機関への提出、月次決算、人材育成の仕組み、就業規則、賃金規定がある企業が早期の操業再開に結びついていること」などがわかりました。要は経営指針を成文化し実践していたかどうかが操業再開のスピードと地域の復興に直結していたことが明らかになりました。
南三陸支部は対企業組織率が全国トップでもありますし、南三陸が日本のモデルになるように教訓を集めようとしています。南三陸町長は全事業所調査をみて、「同友会がなかったら、南三陸町はなかった」という発言をしています。街と一体となって復興に取り組んでいます。