福島から見えてくる景色
本紙では、昨年11月5日から10回にわたり、福島同友会が発行した震災5年記録集『逆境を乗り越える福島の中小企業家たちの軌跡』113編の中から会員企業10社に光をあて、復興の軌跡を連載してきました。
本シリーズを通して、改めて見えてきたものがありました。その1つは中小企業家スピリット。労使見解の冒頭に「われわれ中小企業家はいかなる環境にあっても決して経営を投げ出すことはできない」とあります。
原発災害直接被災地南相馬市の渋佐克之氏は、総合エネルギー企業として水素ステーション導入で復興再生を先導する(2017年11月5日号)と決意。
歴史と観光の街会津若松市の曽根佳弘氏は、避難所体験の中から会津漆器の「撥水性食器」製品化(12月25日号)に成功します。それは「投げ出さない」どころか逆境までも「バネ」にしてしまう逞しい中小企業家魂に溢れています。
また、いわき市で菌床椎茸組合を営む渡部明雄氏は、風評被害に負けず新工場を立ち上げさらなる雇用創出へ(1月15日号)チャレンジ。日本一のきゅうり産地須賀川市でJA大型農産物直売所を運営する佐藤貞和氏は、消費者の「おいしい」を農家に伝えたい(1月25日号)と農業県福島の復活に挑んでいます。
中小企業憲章の前文に「中小企業は経済を牽引する力であり、社会の主役」とありますが、地域経済において中小企業はまさに「地域のインフラ」そのものであることを実証しています。
本紙3月15日号「同友時評」に枝廣淳子著『地元経済を創りなおす』(岩波新書)が紹介されています。少子高齢化社会を迎えた日本社会の持続可能性を、AI分析を基にシュミレーションした未来シナリオを展開し「未来は地域にしかない」と結論づけています。
震災当時、福島県内では中小企業振興基本条例制定の市町村はゼロでしたが、この7年間で福島市、いわき市、須賀川市、郡山市など4市1町2村に急速に広がってきています。「地域の未来」を現実のものとする「地元経済創り直し」の草の根運動が静かに福島県内各地から息吹いてきています。
福島同友会 参与 豆腐谷栄二