【討議資料】エネルギー宣言(案)

はじめに

 現在の日本社会はエネルギーの大量消費によって支えられています。しかしその一方で、日本のエネルギー自給率はわずか4%と海外依存度が高く、国際情勢や為替などで不安定になりやすい状況です。
世界を見れば、これまでの経済優先社会の限界を目の当たりにした欧州の人々を中心に、省エネルギーや新しいエネルギーによる持続可能で質の高い暮らしの実現と新しい社会構造をめざすエネルギーシフト(転換)※の挑戦が始まっています。日本には、森林・海洋・水源・地熱など自然資源が豊富にあり、新しいエネルギーの可能性は大きいものがあります。日本の高い技術をもってすれば、もっと豊富な再生可能エネルギーを生み出し、自給率が高まり、新たな中小企業の仕事も多く生まれます。すでに国内でもさまざまな研究が進んできています。
東日本大震災の福島第一原子力発電所事故によって、長年にわたり生命が放射線の脅威にさらされる事態に陥りました。過去に原子力による戦禍や過酷な災禍を経験してもなお、人類は経済を生命の上におく社会を許容しています。
しかし、私たちはこのエネルギーシフトという潮流を見逃すことなく、いまこそ持続可能な経済社会を希求し、何よりも人々の生命と暮らしを守り、生命を育む地球環境が損なわれないよう転換を促すときです。これは、国民や地域と共に歩み、経済社会を支える役割を担う私たち中小企業家の使命です。原発事故から3年を経たいま、私たちはこの逆境を乗り越え、世界に向けて勇気ある行動をもってその役割を果たしていかなければなりません。
中小企業憲章に謳われた「中小企業は経済を牽引する力であり、社会の主役である」との理念のもと、私たち中小企業家同友会は、持続可能な日本を次代に残すため、ここにエネルギーに関する基本理念・方針を掲げ、政府には「日本エネルギー憲章」の制定を求めるとともに、自らの実践を通じて全国津々浦々で取り組みを広げることを宣言します。

「中小企業家エネルギー宣言(案)」 提示にあたって
 私たちが「中小企業家エネルギー宣言(案)」を提起するにいたった出発点は、2011年3月11日、東日本大震災と福島第一原発の事故を目の当たりにして、生命の尊さとそれを自ら守ることの大切さを痛感したことにあります。中同協東日本大震災復興推進本部研究グループ「REES」では、震災後からエネルギー問題への研究を深めてきました。
 日本はエネルギー自給率4%と、そのほとんどを海外に依存し、価格は国際情勢に左右されています。それは、国民生活を守る観点からも、食料自給率39%と並び大変厳しい状況にあります。一方、ドイツやオーストリアなど、地域循環型経済やまちづくりとエネルギー政策とが結びついた地域では、地域で使うエネルギーは地域で生み出す仕組みを社会的に整備しています。またそれは、再生可能エネルギーを柱にして地域の中小企業が担っていくことにより、仕事も雇用も維持し、活性化していることを、昨年の中同協「ドイツ・オーストリア視察」でつぶさに学んできました。
 私たちは、中小企業振興基本条例などさまざまな形で地域との関わりを強くし、全国的にも中小企業憲章制定運動などを通して積極的に取り組んできました。また「同友エコ」で環境経営を提起してきました。だからこそ今、省エネルギーや再生可能エネルギーへの転換を進める「エネルギーシフト」という課題に対して、先頭を切って取り組むべき時と考えます。
 いまここに、中小企業の仕事をつくり、雇用を守り、地域を活性化して、「持続可能な社会」をめざすための重要な取り組みとして、「中小企業家エネルギー宣言(案)」を討議資料として全国の会員みなさまに提示するものです。
 みなさまの実践をもとにしたご意見をいただきながら、さらに充実したものにして、会の総意として確認したうえで、自らの課題とし、あわせて対外的にも発信していきたいと考えておりますので、ご討議のほどよろしくお願いいたします。
      

2014年7月10日 中小企業家同友会全国協議会

 

基本理念 エネルギーシフトで持続可能な社会を創りましょう。

1. 私たちは、命と暮らしを基本とした新しい持続可能な経済社会をつくることをめざします。
2. 私たちは、原子力・化石燃料に依存しないエネルギーシフトに取り組み、地域と日本の新しい未来を切り拓きます。
3. 私たちは、中小企業の力を発揮して、企業や地域で省エネに取り組み、再生可能エネルギーの創出による新しい仕事づくりに取り組みます。

 

基本方針 日本エネルギー憲章の制定をめざしましょう。

 日本経済の安定した持続可能な将来のために、エネルギーを自給していくことは全国民の願いです。徹底した省エネ、地域分散型エネルギーシステムの普及、地域での再生可能エネルギーによる自給で、原子力や化石燃料への依存度を段階的に減らしていきましょう。エネルギーシフトによる持続的で発展可能な日本を次世代に残すことを願い「日本エネルギー憲章」の制定をめざすとともに、地域では「再生可能エネルギー振興条例」の制定と実践運動とを進めエネルギーシフトによる新しい仕事を地域につくり出していくことをめざして、以下の5点を方針として取り組みましょう。

1. 私たちは、エネルギーの徹底した省力化と、熱源の有効利用で、電力の消費を抑え省エネに取り組みます。

 エネルギーは熱源の有効利用(断熱やヒートポンプなど)、地域発電と地域暖房を組み合わせるコージェネレーションシステムを組み合わせ、電力の消費を抑え、再生可能エネルギーによる自給率を上げていきます。

2. 私たちは、エネルギーの地消する分を地産することをめざし、地域分散型で持続可能なエネルギーシステムの普及拡大を図ります。

 地域資源や工場排熱などを生かした地域暖房や給湯などの仕組みを検討し、再生可能エネルギー固定価格買取制度を有効活用していきましょう。エネルギー供給体制の転換を経営課題として捉え直して、地域分散型エネルギーシステムの普及拡大を図ります。

3. 私たちは、エネルギーコストを削減し、地域からの資金の流出をふせぎ、地域での仕事と雇用の創出に取り組みます。

 エネルギー自給率が4%の日本は、エネルギーシフトを実践することで資金が海外に流出することを少しでも防ぐことができます。省エネ住宅やリフォーム、地域暖房の配管工事などはまさに中小企業の出番です。新しい仕事づくりとして地域でのエネルギーシフトに取り組みます。

4. 私たちは、環境経営でエネルギーの30%以上の省力化に取り組み、多様な再生可能エネルギーの創出で熱源・電力の自給率を高めます。

 同友エコや環境マネジメントシステムなどの環境経営でエネルギーシフトを実践する企業をめざします。電力や熱源、省エネ技術の有効活用でエネルギー30%以上の省力化に取り組むともに、再生可能エネルギーの活用を進めます。

5. 私たちは、地域資源を生かし、中小企業が中心となり地域で低炭素・循環型・自然と共生する社会の実現をめざします。

地域資源・特性(太陽光、里山や木質バイオマス活用)や、排熱・熱源有効利用など現状のエネルギー供給を補うサブエネルギーシステムを構築し、中小企業が中心となり地域で低炭素・循環型・自然と共生する社会の実現をめざします。

※「エネルギーシフト」とは、生活・仕事・交通・住宅などに関わる熱源や電力・燃料などのエネルギー全般について、徹底した省エネに取り組み、地域暖房やコージェネレーションシステムで熱源を有効利用し、再生可能エネルギーによる地域内自給をめざすことで、中小企業の仕事と雇用を生み出し、持続可能で質の高い暮らしと仕事を総合的に地域全体で実現しようとするものです。

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